赤ちゃんの発達のしくみ~原始反射と姿勢反射

生理的早産という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ポルトマンは人間の赤ちゃんは生理的早産で生まれてくると提唱しました。他の生物は大抵、生まれた後すぐに立ち上がり歩みを始めます。生まれた直後の小鹿が立ち上がるシーンなどをテレビなどで見たことのある方も多いのではないでしょうか。そんな他の哺乳類と比べ、人間の赤ちゃんは非常に無力で未熟な状態なのです。母親に世話をしてもらわなければ、一人では何も出来ませんね。この独歩できるようになるまでの1年間を生理的早産という言葉で例えたのです。この1年間は、児童福祉法で「乳児」と区分されています。無力で未熟な状態な乳児ですが、原始反射という素晴らしい機能が備わっているのですね。
平成29年度 前期【保育の心理学】問10

次の文は、乳児の生理的反応についての記述である。適切な記述を○、不適切な 記述を×とした場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

A.大脳皮質が成熟、発達してくると随意運動が原始反射に取って代わるようになる。
B.消失すべき時期になっても原始反射が持続する場合、発達の遅れ等が疑われる。
C.乳児期初期の泣きや微笑は生理的であっても、養育行動を引き出す特性がある。
D.反射に顕著な左右差があるときには、部分的な運動・感覚機能の異常が疑われる。

(組み合わせ)
  A B C D
1 〇 〇 〇 〇
2 〇 〇 × ×
3 〇 × × 〇
4 × × 〇 〇
5 × × 〇 ×

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乳児の原始反射と姿勢反射

赤ちゃんは無力で未熟な状態で生まれてくると先述しました。もちろん、生まれたばかりの赤ちゃんは意図的に物を掴むこともできませんし、自ら移動をしてミルクを飲むこともできません。全く無力な状態です。

原子反射とは?

しかし、この未熟な赤ちゃんが初めての環境に適応して生きていくために生まれつき便利な機能が備わっています。例えば赤ちゃんに授乳をする時に口元を乳首に持っていくと、くちゅくちゅと口を動かし、乳首を吸うような仕草を見せますね。これは吸啜(きゅうてつ)反射と言うもので、口元ではなくても、指や他の物であっても、口元に触れると、赤ちゃんの意志とは無関係にこのような反射が起こるのです。こうした反射のことを「原始反射」といいます。

赤ちゃんの原始反射は、このように生命維持の目的もありますが、反射を繰り返すことによって中枢神経系が発達するという良作用が起こり、その結果、筋力や知的能力も発達し、無意識な運動から意識した運動ができるというところに繋がっていくものでもあります。

そう、原始反射は、随意運動のための準備段階なのです。
赤ちゃんの原始反射にはいくつかあり、現れる時期や消失する時期が違います。この時期は赤ちゃんに共通しています。

姿勢反射とは?

また、姿勢反射は、身体の姿勢や運動中の平衡を調整や維持したりするためのものです。大脳皮質や中脳が発達する時期から見られ、パラシュート反射は生後8~9か月頃から見られるため、10か月検診で調べるところが多いようです。原始反射と違い、姿勢反射は獲得したら消失することはありません。

反射一覧表

保育士試験に出題されるものを中心に主なものを以下に載せます。主な特徴については簡単に説明しています。また、出現・成熟・消失する時期に関しては諸説あるものもあります。おおよその目安として捉えてください。

反射名 主な特徴 主に出現する時期 主に消失する時期
Moro(モロ)反射 仰向けにして急に落とすような仕草をすると、脚と頭が伸び、両腕がぱっと上がった後戻る。母親から落下しそうな時に近くのものに抱きつこうとする反射 出生時 生後3~4か月頃
歩行反射(自動歩行) 足の裏が平面に触れると歩行するような仕草を見せる反射 出生時 生後6週~8週ごろ
探索反射 口の近くを撫でると、それを探すようにその方向に頭を向ける反射 出生時 生後4か月頃
吸啜反射 本能的に口の縁に触れたものを何でも吸う反射 出生時 生後4~7か月頃
嚥下反射 口の中に入った液体を飲み込む反射 出生時 生後5~6か月
押し出し反射 舌に触れた固形物を外に押し出そうとする反射 出生時 生後5~6か月
非対称性緊張性頸反射 頭が一方の側に向けられた時に、向けられた側の腕が伸びて逆側の腕が曲がる反射 生後1か月頃 生後4か月頃
手掌把握反射 乳児の下の平に何かが触れると、物を掴もうとする反射 出生時 生後3~4か月頃
足底把握反射 乳児の足底を刺激すると足指が曲がる反射 出生時 生後9~10か月
ギャラン反射 乳児の背中側面の肌が撫でられると、撫でられた側に向かって揺れる反射 出生時 生後4~6か月
Babinski(バビンスキー)反射 足の裏を尖ったものでかかとからつま先に向けてこすると、足の親指が甲側に、他の4指が外側に開く反射 出生時 1~2歳頃
Landau(ランドウ)反射 乳児をうつぶせの状態で水平にすると、頭を挙げて水平を保とうとするが頭を下げると腰を曲げてハイハイをするような恰好をする反射。 生後3か月 2歳頃
パラシュート反射(姿勢反射) 直立に支えられている乳児が、すばやく前向きに回転した時に腕を前に伸ばし、頭からの墜落を防ぐような仕草を見せる反射 生後8~9か月 消失はしない(一生持続)
ホッピング反射 身体を前後左右に倒そうとすると倒れないように足を踏み出し平衡を保とうとする反射 生後9か月頃 消失はしない(一生持続)
視性立ち直り反射 乳児を座らせて左右に傾けると頭を垂直にしようとする反射 生後6か月頃 消失はしない(一生持続)

原始反射はどうして消失するの?

簡単に言うと必要がなくなる頃に消失します。原始反射=不随意運動が見られる時には、その反射が関与する随意運動は見られません。

大脳の発達と原子反射の関係

前半でも少し述べましたが、その随意運動が赤ちゃんの意志で出来るようになった頃に、原始反射が消失するのです。反射は、大脳を介さずに起こるものです。不随意に行われる原始反射が消失するということは、脳幹が発達し、大脳の発達準備が出来たということでもあります。随意運動は大脳がつかさどっているからです。

ですから、原始反射は赤ちゃんの成長が順調であるかどうかを見る指標にもなります。出現や消失する時期や、原始反射が左右対称かなどによって、発達障害や脳機能であるかの指標にもなります。

もちろんそれを診断するのは医師ではありますが、保育士として、日々赤ちゃんに関わっていく私たちが「何か気になる」と小さな変化に気づくことはとても大切ですね。



めざましい成長発達を遂げる赤ちゃんの1年間には、原始反射の出現、消失、随意運動、そして最終的には歩行と様々な過程を見ることが出来ますね。保育士試験にも原始反射とその特徴について出題されますので、覚えておきましょう。もちろん、首すわり、寝返り、おすわり、はいはい(おすわりとはいはいは逆のこともあります)、つかまり立ち、歩行と、その発達順序は決まっていても、赤ちゃんの発達のペースはそれぞれ。早い遅いはありますので、その子なりのペースを見守ってあげたいですね。